春。庭に出ると、生き物が姿を現し始めた。花の周りにはチョウが飛び、水辺の近くの穴からはカエルが顔を出し、地面にはアリが歩いている。
息子と庭で遊んでいると、息子がおもむろにアリを踏もうとしている。アリを追いかけながら、踏み潰そうとしているのだ。おもわず、
「ダメだよ」
と声をかける。すると息子は、
「なんでだめなの?」
と答える。
そうか、息子にはまだ「虫さんたちにも命がある」ということを理解できていないんだということに気付く。
私や妻、娘、祖母などが具合が悪くなった時などは「死なないでね」などと心配するため、人間の死についてはある程度の理解はしているよう。でも、他の生き物についてはまだまだ曖昧なのだ。実家で飼っている犬についてはどうなのだろう。お隣さんの飼っている猫は?幼稚園で飼っているポニーや亀、鶏等々は?
そもそも「命」というものはどうやって意識化されるのだろうか?風邪をひく家族の心配はするけれど、アリを踏んづけても何とも感じていない。それは、やはり「身近」かどうかなのか。息子は虫が苦手で、小さな虫が近くにいるだけで大騒ぎ。決して「身近」ではなく、むしろ「敵対するもの」だ。だから「『虫』は殺してもいいもの」と思っているのかもしれない。
でも、私もあまり虫は得意ではないが、むやみに殺生してはならないことは分かっている。息子にもそういう感覚が芽生えるのだろうか?